スタートアップの経理は誰がやる?選択肢5つとリスクへの対策2025.02.13

新しい技術やビジネスモデルで急成長を目指すスタートアップ企業は、その事業によって社会の課題を解決する、日本経済の成長を促すことなどが期待されています。
事業を成功させるには、必要なお金を適切に管理していくことも必須です。しかし、「忙しくて事務作業まで手が回らない」「経理をどうすればいいかわからない」という経営者も少なくありません。
そこで今回は、スタートアップの経理に焦点を当てます。スタートアップにとっての経理の重要度から、経理業務をどうするかの選択肢、おすすめのリスク対策を解説するので、ぜひ読んでみてください。
目次
創業直後から行うべき経理業務

日常で行う経理業務の内容は、スタートアップでもそうでない場合でも変わりません。創業直後から、次の3つの時間軸で行っていく必要があります。
- 日次業務
- 月次業務
- 年次業務
日次業務では、現金や預金の入金・出金管理や、経費の精算、現金残高の確認、帳簿への記入といった作業を行います。
月次業務では、売掛金(顧客などからの入金)や買掛金(支払うべきお金)の管理、請求書の発行などをします。従業員がいれば給与支払いなどを行い、社会保険料など月払いの税金も納付します。
年次業務は、年に一度行うものです。1年の会計を決算書にまとめて財政状況を明確にするほか、法人税などの確定申告を行って納税するなどします。従業員がいる場合は、源泉徴収した所得税について11月~1月頃に年末調整を行います。
「経理を誰がやるか」を決めておこう

事業を始める前に、経理を誰が行うか、誰に任せるかを決める必要があります。まずはその選択肢を見ておきましょう。
選択肢は5つある
経理を誰が行うのかの選択肢は、主に次の5つです。
- 自分で行う
- 共同経営者に任せる
- 専門に人を雇う
- 経理業務の一部を委託する
- 経理業務すべてを委託する
それぞれにメリット・デメリットがあります。順に説明します。
経理業務も自分で行う

もっともシンプルで費用もかからないのは、自らが経理も行うことです。実際、起業してすぐは自身で経理業務を行う人も多いのが実状です。
ただし、短期間で成果を上げる必要のあるスタートアップでは、知識のない経理業務に多くの時間を割くのは非効率であり、事業のネックともなります。優先度が下がり後回しにすれば、経営状況が把握できず、判断のミスにもつながりかねません。
共同経営者に任せる

同じ志を持つ仲間と共同で起業する人もいるでしょう。その場合、経理方面に長けた共同経営者に任せるのも1つの方法です。役割分担をはっきりさせれば、事業も効率よく進められます。
ただし、共同経営には人間関係の悪化などによる解消のリスクもあります。経理を任せきりにした結果、お金を持ち逃げされるようなケースも少なくありません。
経理専門に人を雇う

専門に人を雇う場合には、さらに次の2つのパターンがあります。
- 正社員やパート・アルバイトなどを直接雇用する
- 派遣社員を受け入れる
正社員やパート・アルバイト
一般的には、直接雇用をすれば組織の一員として定着し、長く活躍してもらえる可能性があります。
ただし、社会保険料や福利厚生などの負担があるため、コストが高いことは否めません。また、実績や能力、信頼性などを兼ね備えた人物の採用は容易でないという側面もあります。
派遣社員
派遣社員であれば、採用や労務管理のコストが抑えられますし、即戦力をすぐに獲得できます。
ただし、派遣法で同一人物の派遣が最長3年と決まっていること、契約した以外の業務は頼めないことなどがデメリットとなり得ます。
経理業務をアウトソーシングする

経理業務を外部の代行業者に委託する、いわゆるアウトソーシングのも1つの方法です。アウトソーシングの利用方法にも、大きく次の2パターンがあります。
- 経理業務のすべてを委託する
- 経理業務の一部のみ委託する
すべての業務を外部委託する
経理業務をまるごと代行業者に委託すれば、自社の人材リソースは本業に専念できます。もちろん、業者なら正確な経理処理ができるなどのメリットもあります。
ただし、経理を任せることで経営に関しても何もしなくなる人や、数字がその場ですぐ見れないことにストレスを感じる人もいるため注意が必要です。
一部の業務を外部委託する
「すべてを外部業者に委託するのはちょっと…」「自社でもできるようにしたい」という場合は、記帳など作業量の多い業務だけアウトソーシングすることも可能です。それだけでも、自社での作業効率はグンと上がります。
ただ、委託料がかかること、業者に自社の経済状況を知られることは避けられません。
CFOはミドル期以降の採用でいい

スタートアップの事業の成長・拡大に欠かせない役割が「CFO(最高財務責任者)」です。CFOとは、財務戦略を立て、最適な方法で資金調達を行ったり、設備投資、M&Aなどの必要性を判断したりと、財務関連をマネジメントする役割。
重要なポジションですが、日常的なお金の流れを管理する経理業務とは役割が異なります。起業直後のアーリー期、経営が軌道に乗っていない状態では、まだ活躍機会は多くありません。優秀なCFOには高額な報酬も必要なため、最初から無理をして雇い入れるのにはリスクもあります。
立上げメンバー以外の人をCFOとして迎えるなら、売上が増加するミドル期以降、設備投資などに大型の資金調達が必要となる頃、上場の準備を始める頃にするのが得策です。
スタートアップによくある経理の課題
短期間での成長を期待されるスタートアップでは、本業以外に目を向ける時間がなかなかとれません。経理においては、次のようなことが課題となります。
経理を後回しにしてしまう

アーリー期は、まず事業資金の調達のため・事業を軌道に乗せるために奔走する時期。そのため、少額のお金が動いても、その管理の必要性を忘れていたり、忘れていなくても「後でまとめてやればいいだろう」と後回しにしたりしてしまいがちです。
しかし、後回しにすることで、お金の流れが正確に把握できなくなったりして、作業量が増えるだけでなく、複雑化してしまいます。
経理知識がなくてわからない

本業に関する知識や経験が豊富でも、経理に必要な簿記や税務の知識まで豊富だという人はなかなかいません。経理をどうすればいいかわからないまま事業を進めてしまったり、間違った方法で帳簿に記載してしまったりすることも。
経理を間違えていると、経営に必要な数字が把握できず、重要な判断まで誤ってしまう恐れがあります。
経理に関する法令の知識がない
経理業務は、あらゆる法令に基づいて行われる必要があります。経理業務の知識がなければ、関連する法令の知識もないことがほとんどでしょう。
しかしそれでは、無意識に法令違反を犯すことにもなりかねません。法は社会情勢などにより繰り返し改正されているため、常に最新の法令を遵守する必要があります。
ミスが起きやすい

経理の知識がないと、HowTo本を見たりして経理業務を行っても、ミスが起きやすくなります。というのも、経理業務は業種や会社ごとで行うべきことが違い、勘定科目なども会社によって異なるため、本やネット上の情報だけではわからないことが多いのです。
知識がなければ間違いにも気づけませんし、知識がある人でも多忙で時間に追われるなどしていれば、ミスが起きやすい状態に陥ります。
不正に気付きにくい
自分に知識がなくても、誰かに任せるという選択肢が当然あります。ただし、スタートアップで事業に専念し、経理を知人などに任せきりにすると、不正が起きやすく、気づきにくい状態となります。
不正な送金が行われていたり、現金を着服されていたりしても気づかず、信頼していた人に裏切られた、という話も少なくありません。
スタートアップの経理が重要な理由

現金の残高が少しくらい合わなくても、管理が多少ずさんでも、「事業が軌道に乗ってお金が入れば問題ない」と思う人もいるかもしれません。
しかし、経理は「経営管理」であり、あなどると経営の悪化や破綻につながります。重要性をしっかりと理解しておきましょう。
経営状況の正確な把握
経営状況の把握には、正確な経理処理が必須です。経営状況は、主に会社の資産と負債のバランスを見る「貸借対照表」や、経費と利益の額で見る「損益計算書」、現金の流れを見る「キャッシュフロー計算書」などの財務諸表で見ます。
これらを作成するのも経理の仕事ですが、業務をずさんにしていては、正確な資料も作成できません。
請求もれ・支払いもれのリスク
経理がしっかり行われていなければ、請求すべきお金を請求し忘れたり、支払うべきお金を支払い忘れたりする可能性があります。
入るべきお金が入らなければ、支払うべきものが払えず、売上はあるのに資金が底をつく「黒字倒産」などの原因になります。支払うべきお金が支払えなければ信用を失い、取引先や顧客を失ってしまうでしょう。
金融機関など外部からの信用度
スタートアップの事業を成功させるには、資金調達が必須です。金融機関から融資を受けたり、投資家から出資してもらったりするには、事業の将来性だけでなく、経営の健全性も重要なポイントです。
経理業務が正確に行われていることは、経営が健全かどうかの重要な判断材料の1つです。前述の財務諸表などが正確に作成されていなければ、企業としての信用度が低くなります。そうなれば、金融機関や投資家からの支援も得られません。
証券取引所や証券会社の審査
上場を考えるスタートアップの場合、証券取引所による上場審査や、証券会社による引受審査を受ける必要があります。
これにも、正確な財務情報の提供が必須であり、それには日々の正確な経理業務の積み重ねが必須です。
社内の不正リスク
もしも社内で不正が行われ、それに気づけなければ、会社は資産を失います。不正の内容によっては取引先や顧客、社会的な信用も失うことに。
それだけでなく、投資家に損害を与えたとして損害賠償を請求される恐れもあります。
税金の申告もれリスク
事業所得を得れば、納税の義務も生じます。企業には法人税法など複数の法律を守る義務があり、守らなければ処罰を受けることに。法改正などへの適応が必要なのもそのためです。
必要な税金は期日内に不足なく納める必要があり、知らなかったでは済まされません。税金の未納や滞納があるとなれば、社会的信頼も大きく損ねます。
スタートアップの経理のリスク対策
上記のようなリスクを防止するためには、複数の対策を取っておく必要があります。ここでは、リスク対策と同時に経理業務の効率化が図れる方法を4つ紹介します。
- 書類はペーパーレス化する
- ネットバンキングを利用する
- クラウド会計システムを活用する
- アウトソーシングも視野に入れる
それぞれ説明します。
書類はペーパーレス化する

契約書や見積書、注文書や請求書、領収書といった書類は、紙でなくデータで管理・保存するようにしましょう。紙で受け渡しした場合も、スキャナ保存にします。
ペーパーレス化しておけば、印刷にかかる用紙代やインク代、郵送料、書類の保管コストがかからず、確認や提出などの際に探すのも楽です。インクが消えてしまったり、日に焼けたり濡れたりしてダメになることもありません。
ネットバンキングを利用する

金融機関のインターネットバンキングを利用すれば、限られた時間に窓口で並ぶ必要もなく、時間を有効活用できます。
残高や取引の明細も自動的に記録されるので、いつでも確認できるうえ、不正の防止にもつながります。
クラウド会計システムを活用する
クラウド会計システムとは、インターネットのクラウド上で管理できる会計システムのことです。クラウド型なのでいつでもどこからでも利用可能で、法改正にもアップグレードで対応できます。
作業をする上では、領収書や請求書からの転記ミスがなくなり、仕訳も自動でしてくれるため、試算表や総勘定元帳などの作成が正確にできます。
さらに、経費精算など複数のサービスを連携させることができ、より大幅な業務効率化も可能になります。
アウトソーシングも視野に入れる
前述のとおり、経理業務は、アウトソーシングすることも可能です。代行業者では経理知識を持つスタッフが業務を行うため、正確な作業とミスの防止が期待できます。それだけでなく、業務効率化につながるフロー改善などの助言が受けられる可能性も。
利用にはコストもかかりますが、人を雇うのと比べて半額ほどまで節約できる可能性もあります。
スタートアップの経理にこそ代行がおすすめ

経理業務は事業主が自らすることも不可能ではありません。しかし、成長スピードが重視され、緊張感をもって事業に向き合うべきスタートアップには、経理業務が大きな負担となりがちです。
そこでおすすめしたいのが、前章でも選択肢の1つに挙げた経理代行サービスの利用です。その理由やメリットなどについて見ていきましょう。
経理はアウトソーシング向き
経理は機密情報を扱う業務ではありますが、重要な判断を必要としないルーティン作業も多いため、アウトソーシングに向いています。
実際、ソニーや東洋紡といった有名企業でも、経理業務はアウトソーシングされています。東洋紡は、2016年に社員による経理の不正が発覚、3年後の2019年から、財務・経理部門の外部委託を始めています。
アウトソーシングできる業務内容
経理代行業者に委託できるのは、次のような業務です。
- 記帳
- 経費精算
- 銀行口座の入出金管理・振込手配
- 売掛金・買掛金の管理
- 見積書・請求書の発行
- 給与計算
このうち記帳や給与計算だけを委託することも可能ですし、すべてを委託することも可能です。ただし、具体的な請負内容は業者によって異なるので、契約前の確認が必須です。
また、税理士と提携している業者であれば、法人税や消費税の申告、従業員の年末調整、決算書の作成なども委託できます。
ただし、現金を取り扱う業務や、事務所への常駐、企画立案や判断業務のほか、資金調達など財務関連の代行はできません。
アウトソーシングのメリット
経理のアウトソーシングには、大きく2つのメリットがあります。
- コア業務への集中
- ミスや不正のリスク削減
記帳や振込などの作業に時間と労力を奪われず、事業に専念できるのは大きなメリットです。より正確な作業をしてもらえるため安心ですし、社員による不正の心配も無用です。
スタートアップならではのメリット
さらに、スタートアップが経理をアウトソーシングすることには次のようなメリットもあります。
- 業務の基盤が整う
- 引き継ぎ時の手間が少なくて済む
実績の豊富な経理アウトソーシング業者には、他社の経理代行でノウハウが蓄積されています。どのようなフローで行えばムダなく効率的に進められるかなどを把握しているので、業務の基盤を最適な状態で整えることができます。
立ち上げ当初からアウトソーシングを利用すれば、途中から引き継ぐときのような手間が省けます。途中や何かトラブルが起きてからの委託には労力のほかコストもかさむ可能性があるため、スタートから委託するのが得策です。
アウトソーシングする際の注意点
経理を外部委託することに対しては、反対意見もあります。それは、「事業主は経理くらいできなくてはならない」「数字を見なければ経営に失敗する」というものです。
しかし、急激な成長や上場を見据えたスタートアップでは、知識のない事業主が自ら日々の経理業務を行うのが必須とは言えません。もちろん経理知識があるのは理想ですが、学ぶなら起業前にしておきたいところです。
ただ、数字を見なければ経営に失敗するというのは事実でもあり、経理をアウトソーシングしたら数字を見なくてもいいというわけでは決してありません。財務諸表を見るための知識は必ずつけておき、代行業者から提出された資料には必ず目を通しましょう。
スタートアップの経理もBricks&UKへ

スタートアップの経理を誰がやるかは悩ましいところかもしれません。自分で行えば早いですが、スタートアップで事業に専念すべき時期に、何もかも自力で行うのには無理があるでしょう。
人を雇うにも、お金を扱うとなれば信頼や実績、能力など多くの条件を満たす人でなくてはならず、採用に力を入れる必要も出てきます。
とはいえ経理は重要、となれば、おすすめは経理代行サービスの利用です。専門業者に任せれば採用の手間も作業の手間もなく、ミスや社内不正の心配もなくコア事業に専念できます。
当社「Bricks&UKアウトソーシング」では、母体である税理士法人と連携して経理業務を代行いたします。一部のみの委託でも丸投げでも可能、業務フロー構築のお手伝いも得意としています。ぜひお気軽にご相談ください。