経理の不正はどう防ぐ?主な手口と発覚のきっかけ、リスク対策を紹介2025.03.10

経理社員による不正は企業規模に関係なく起こっており、たびたび大きなニュースとなります。信頼していた社員に裏切られ、大きな損害を被るなどという事態は避けたいものです。
今回は、企業の会計に関する不正の中でも経理の不正に焦点を当て、過去の実例や主な手口、事件として発覚したきっかけなどについて紹介します。
不正が起きる背景や会社への影響、不正リスクへの対策も解説するので参考にしてください。
目次
実際にあった経理の不正事例
社員などによる経理の不正には、被害額が桁違いなものも少なくありません。まずは従業員による巨額な不正の事例を3つ見ていきましょう。
建設業Y社の事例

親会社と子会社の経理責任者を兼任していた、勤続30年の経理課長による不正事件。
子会社の口座から繰り返し不正に現金を引き出し、その後、息子が代表を務める企業など4社に対し、貸付などの名目で不正支出を繰り返します。
発覚直後、現金の引き出しは「上司への裏金だった」、息子への送金は「融資だった」などと主張していました。
経理部門の状況
当人は子会社の銀行印や通帳を管理する立場にあり、引き落としなどの手続きも自由にできた上、帳簿付けも1人で行っていたといいます。
不正は、当人が印鑑や通帳を管理するようになったその年から始まりました。
業務上、現金の引き出しは原則としてなかったにもかかわらず、約10年の間に200回近く引き出されています。しかし誰にも気づかれない状態でした。
不正の期間と被害額
不正が行われていた期間は約10年。総額で約26億円もの被害にあっています。
そのうち9億円が、息子や息子が代表を務める会社に送金されていました。
また、被害は子会社の売上のみならず、親会社から送金された資金も含まれると考えられています。
機械等販売業F社の事例

大手産業機械メーカーの子会社に勤務していた、企画管理部長による不正事件。
立場を悪用して勝手に小切手を振り出す手口を繰り返し、銀行で引き出した現金を競馬などにつぎ込んでいました。
経理部門の状況
同社の従業員数は7名。当人が会計処理や小切手の発行などをすべて単独で行える状況が、長年にわたり続いていたといいます。
出金の証拠は、会計システムの不正操作などにより隠蔽していました。
不正の期間と被害額
不正が行われていた期間は少なくとも約8年、被害総額は約8億円にのぼりました。
不正は、同社の廃業に伴う清算準備の時点で不正が発覚します。しかし当人はそれにも携わっており、清算業務の間も着服を続けていたといいます。
ジュエリー販売・製造業K社の事例

税理士事務所などでの勤務経験があり、入社時点で税理士試験1科目に合格していたという経理担当者による不正。
オンラインシステムを悪用して個人口座への送金などを実行。着服した金銭は複数の不動産や株式、車・バイク、時計などの購入などに充てていました。
経理部門の状況
当人は、社内の経理体制に不備があると気づき、「横領しても発覚しないだろう」と入社7カ月後から不正に着手。入社3年後には、事実上の経理責任者となっています。
不正の事実は、材料費の過大計上、取引の帳簿不記載のほか、社内監査の対象となっていた預金残高一覧表を偽造するなどして隠していたといいます。
不正の期間と被害額
不正が行われていた期間は約7年に及び、被害は総額で約3億9千万円に上っています。
経理による不正の主な手口・パターン
経理関連の不正(会計不正・不正会計とも呼ばれる)には、大きく分けて次の2つがあります。
- 粉飾決済
- 資産の流用
粉飾決済は主に、企業が自社の業績を良く見せるために行うものであり、経営者や役員によって行われる不正です。
資産の流用にはいわゆる「業務上横領」や「キックバック」などがあり、経営者のほか従業員による事例が多く発覚しています。
ここからは、従業員などによる資産の流用に焦点を当てて解説します。
「資産流用」の手口の内訳

資産の流用には、複数の手口があります。日本公認会計士協会による「上場会社等における会計不正の動向(2024年版)」によると、次のような順で多く発生しています。
- 現金の横領
- 第三者の会社を介在した資金流出
- 物品の横領
- 自己保有の会社や親族保有の会社などを利用した資金流出
最も多いのは、現金を横領するケースです。ただし、複数の手口を併用したり、手口を変えていくケースも少なくありません。
資産流用の具体例

具体的な手口には、次のような例があります。
- 小口現金やレジ現金、切手などを盗む
- キャッシュカードを持ち出し、預金を引き出す
- 売上金を個人口座に入金させる
- 在庫品や備品などを持ち出して転売する
- 請求書を偽造して架空の支払いを行う
- 販売記録を残さず、受け取った代金を着服する
- 経費を水増し請求する
- 水増し価格で請求し、キックバックを受け取る
- 退職済みの社員に架空の給与支払いを行う
- 現金売上表を破棄するなどして現金を着服する
同じ手口で定期的に行うケースもあれば、複数の手口を使うケースもあります。最初は少額でも、どんどん高額になり、長期間に及んで巨額な被害になるのもよくあるパターンです。
ちなみに、前述の調査結果で過去5年間に不正が多かった業種上位を見ると、サービス業、卸売業、情報・通信業、建設業、電気機器業の順となっています。
経理の不正発覚のきっかけ

長年にわたり発覚しないことも多い経理の不正。発覚する主なきっかけは次の5つです。
- 会計監査人による指摘
- 税務調査
- 内部統制(社内調査)
- 内部通報・内部告発
- 取引先からの照会
いずれも「第三者の目」がきっかけと言えるでしょう。それぞれ説明します。
会計監査人による指摘

上場企業や一定規模以上の株式会社には、会計監査人の設置が義務付けられています。会計監査人は、通常は年に一度、会社の財務諸表が正しく作られているか、会計処理が適切に行われているかを監査します。
前述のY社のケースでは、会計監査人が「預金残高と帳簿残高に約10億円の違いがある」と指摘。社内調査を行い、不正が発覚しました。
税務調査・査察調査など

税務調査は、税金に関する申告内容が正しいかどうかを確認するために税務署が行う調査です。査察調査は、国税庁が脱税などの疑いがある納税者に対し強制的に行う調査です。
前述のK社のケースでは、まず国税庁の調査によって当初2億3千万円の横領の可能性が示唆されました。その後、社内調査を行い、被害額は3億9千万円にのぼることが判明しています。
内部調査・内部統制

会社が自主的に、あるいは何らかの疑いにより内部調査を行うことがあります。
前述のF社のケースでは、同社が廃業に向けて清算準備をしている段階で、過去の小切手の入出金履歴に不審な点を発見。内部調査が行われ、不正が発覚しました。
その他、人事異動で新任となった社員(管理者)が経理業務の改善に着手し、過去の資料を見直す中で発覚したようなケースもあります。
内部通報・内部告発

別の従業員が不正に気付き、あるいは知り、社内の窓口や外部の期間に情報提供することも少なくありません。
社内に設置された専用窓口への情報提供は内部通報、労基署やマスコミなど外部に情報を提供する行為は内部告発と呼ばれます。
会社や通報窓口への信用度が低い場合、従業員は事実のもみ消しや自身への不利益を心配し、外部への内部告発を選ぶ可能性が高くなります。
取引先からの照会

たとえば下請業者が元請業者に水増し請求をするケースがあります。その場合、元請業者側が気付くなどして確認が入り、不正が発覚することも。
各社の担当者が結託して行うのが一般的であり、通常、発見は困難です。しかし、取引先の担当者が代わったタイミングや、内部統制によってチェックされた際などに発覚する可能性があります。
不正が起こる背景と企業内部の問題点

経理の不正が発覚した企業の一部は、事件の経緯や背景などについて調査を行い、結果を社外に公表しています。それによると、不正が起きた企業には次のような共通の問題点がありました。
- 不正に対する危機意識の低さ
- コンプライアンス教育不足
- 社内チェック体制の不備
- 経理部門の人員不足と属人化
- 全権委任とブラックボックス化
それぞれ詳しく見ていきましょう。
不正に対する危機意識の低さ

経営者など組織のトップに「不正など起きないであろう」という楽観的な考えがあると、管理がゆるくなり、不正が起きやすい環境を作ります。
取締役や監査役も名ばかりとなり、本来は自然にあるべき牽制機能、つまり組織内で社員が相互に監視・チェックする機能も働きません。
相談窓口や内部通報窓口を設置したとしても、事実上機能せず、利用者も現れません。
コンプライアンス教育の不足
近年では、法令遵守の重要性が叫ばれ、新入社員や若手社員への研修を行う企業も多いでしょう。
ただ、役員や経験の長いベテラン社員については、必要性の軽視やコスト削減の観点から実施されないことも多いようです。
しかし不正の当事者には管理責任者も多いのが現状です。コンプライアンス意識の低さが不正を後押ししてしまいます。
社内チェック体制の不備

不正が見過ごされていた企業のほぼすべてが、社内のチェック体制に問題があった、チェック機能が働いていなかったと調査報告書などで認めています。
不正は一度成功すると、何度も繰り返される傾向にあります。着服の額も、最初は比較的少額から始まります。
そのため、もし定期的なチェックが行われていれば、最小限で止めることもできたと考えられます。その前に、不正を働こうとする気すら起きない可能性も高いでしょう。
経理部門の人員不足と属人化

巨額の不正が発覚した企業の多くが、経理部門に多くの人員を割くことを避け、業務が増えても人員の補充をしないなど、人員不足の状態でした。
人員不足になると、業務が簡略化されがちです。フローがいつの間にか勝手に変えられ、時間がないなどの理由でチェックもされなくなり、業務が「その人にしかできない状態」に属人化してしまいます。
そうなると、他の社員に監視・牽制されることのない「不正がしやすい環境」が生まれます。
全権委任とブラックボックス化

長時間同じ人物に経理を任せている、しかも1人に全権を委任し、何でもできる状態になっていることも不正の温床です。
経理業務が「何が行われているかが他の誰にもわからない状態」にブラックボックス化すると、「不正をしても気づかれないだろう」という発想につながり、実行してしまう人が現れます。
誰からもストップがかからない環境では、本人にも止めるのは難しいようです。発覚した時には取り返しのつかない事態となっている例が多く見られます。
経理の不正が及ぼす会社への影響

経理担当者による不正は、会社組織や役員個人にも次のように多大な影響を及ぼします。
- 金銭的な損害
- 対応、処分、予防策などの実施
- 社会的な信用の失墜
- 追徴課税
- 法令違反による課徴金の納付命令
- 監督責任を問われての社内処分
- 労働裁判への発展
それぞれ見ていきましょう。
金銭的な損害

着服された金銭は、多くが借金や投資、ギャンブルなどに当てられ、発覚したときにはすでに当人の手元にないことがほとんどです。
損害賠償請求をするにも、民事訴訟や刑事告訴に発展しても、支払能力がなければ高額のお金を回収するのは現実的に難しいでしょう。
その場合、被害額が回収できないだけでなく、訴訟などの手続きに弁護士費用などの負担がマイナスとなります。
対応、処分、予防策などの実施

不正が発覚したら、会社としてなすべきことがたくさんあります。
被害を立証する責任は、被害者側にあります。まずは当人への聞き込みなどで事実を確認し、証拠を押さえることが必要です。高額被害の場合には、第三者委員会を設置する必要も出てくるでしょう。
もちろん、社内規程に基づき当人への懲戒処分を決める必要もあります。社内外への説明も行わねばなりません。
再発防止のため、内部統制を見直すなどして予防策も講じる必要があります。
社会的な信用の失墜

社内での不正が明らかになれば、会社の社会的な信用も失墜します。管理体制の甘さや社内のチェック機能の形骸化、コンプライアンス意識の低さなど、内部統制の不備が原因と見なされるからです。
内部統制は中小企業では義務化されていませんが、経営の質を表すものとされ、その必要性は高まっています。
顧客に損害を与えた、被害が高額だった場合はなおさら、株主などのステークホルダーから経営陣の責任を追及される可能性も高いでしょう。
追徴課税

従業員による不正で経費や売上などがごまかされていれば、税金の額も正しく算出されていないことになります。税務申告・納税額が実際より少なければ、追徴課税が課されます。
税務署の指摘により税額の修正申告を行った場合、「過少申告加算税」を支払わねばなりません。
さらに、不正を行った当人に業務を任せきりにしていたり、会社が当人の管理・監督をしていなかったりした場合、社員個人による横領であっても会社(法人)の行為とみなされ、重加算税の対象となります。
法令違反による課徴金の納付命令

税金に関すること以外でも、一担当者が単独・独断で行った不正が会社の行為と見なされる可能性があります。
前述のY社のケースでは、当該社員は子会社の口座から不正支出を行い、四半期報告書と有価証券報告書に虚偽の記載をしていました。
この件について、金融庁はY社に対し、金融商品取引法違反として課徴金1800万円の納付命令を下しています。
監督責任を問われての社内処分

不正行為をした当人の上司なども、部下に対する監督責任を怠ったとして懲戒処分される可能性があります。
前述のF社の事例では、親会社であるK社の会長や社長をはじめとした8人が月額報酬の一部返上などの処分を科されました。
別の企業の事例では、部下の横領を見逃した上司が監督不行き届きなどの理由で懲戒解雇されています。
労働裁判への発展

不正行為により懲戒処分を行った場合に、当人が会社に対し、「処分が重すぎる」「上司の指示で行ったものだ」などの理由で労働裁判を起こすケースも散見されます。
横領の証拠を立証するのは難しいため、会社が裁判で負けることもあります。
裁判費用がかかるほか、もし証拠不十分で懲戒処分が不適切と見なされれば、処分の撤回や未払賃金の支払義務なども発生します。
経理の不正を防ぐための対策

経理の不正は発覚までに時間がかかり、その間に被害が高額になることも少なくありません。
そのため、普段から次のような複数の方法でリスクを減らす必要があります。
- 属人化・ブラックボックス化の解消
- コンプライアンス教育の徹底
- システム化などによる業務プロセスの改善
- 多段階認証の体制づくり
- 社内・社外監査の強化
- 社外リソースの活用
それぞれ説明します。
属人化・ブラックボックス化の解消

担当者だけが業務の手順や状況を把握し、周りからは何が行われているかが見えない「ブラックボックス化」と、それにつながる属人化は解消する必要があります。
経理の不正事件のほとんどが、「その人にしかわからない」、「介在する人がいない」という環境で発生しています。
ダブルチェックの体制を作る、定期的に担当替えを行うなどすることが重要で、それには適切な人数の配置も必須です。
コンプライアンス教育の徹底

経理の不正では、「すぐに返せばいいと思った」「バレないと思った」と考えて始めるケースが多いことがわかっています。
また、たとえば上層部が普段から私的な支出を経費にしているなどの場合、「それなら自分だっていいじゃないか」と社員が自身の不正行為を正当化させる要因に。
コンプライアンス意識の低さは不正に直結するため、全社員・全役員に教育を徹底する必要があります。
システム化などによる業務プロセスの改善

不正は人の手が介入することで起こるため、業務の自動化・機械化も防止に役立ちます。
会計ソフトを使えば、他のソフトと連携させて仕訳を自動で行ったり、銀行のデータと売掛データを照合して自動消込したりできるため、ごまかしができません。
また、小口現金を廃止して取引をすべて口座振替にしたり、キャッシュレス決済を利用したりすることも効果的です。
ただし、システムに関しては旧式のシステムの欠点を悪用した例もあります。古いシステムやインストール型ソフトの場合は、買い替えの検討がおすすめです。
クラウド型の会計ソフトなら、常に最新の機能が使えます。複数人による確認もできるため、不正防止につながります。
多段階認証の体制づくり

担当者が他の誰の目も通さず多額のお金を動かせる状態であることも、不正の温床です。複数人による認証を経てはじめて送金・支払いができる体制にしておかねばなりません。
中には、体制は整えていても運用されず、上司の多忙さや怠慢から確認しないのが慣例となっていたケースや、誰でも自由に印鑑が使える状態だったケースもあります。
体制づくりは必須ですが、形骸化させないことも重要です。
内部調査・外部監査の強化

上記のようなコンプライアンス教育やシステム・体制の整備を行ったら、それが適正に機能しているかどうかの定期的な調査も重要です。
中小企業の場合、内部監査に専門人材を雇うことは難しく、外部監査を受ける義務もありません。
しかし、たとえば口座の出金履歴を月に一度はチェックする、予実管理を確実に行うなどの管理を徹底していれば、それも大きな抑止力となります。
顧問税理士による毎月の訪問なども、「何かしたらすぐにバレそう」という危機感につながります。
社外リソースの活用

社内での予防には限界もあります。そこで検討したいのが、前述の税理士など社外リソースの活用です。
経理業務は、外部の代行業社に委託するのも1つの方法です。不正が起こり得る一部業務をアウトソーシングする、あるいは経理業務をまるごとアウトソーシングすることで、社内の不正リスクを大きく削減できます。
代行には、専門スタッフによる正確で適切な業務遂行、人件費の削減など、他にも複数のメリットがあります。
不正の防止にも経理アウトソーシングがおすすめ

中小企業が内部統制や監査に力を入れるのは難しいのが現実です。取り掛かるにも長い時間と大きなコストがかかります。
とはいえ、チェック機能もないまま放置するのは危険です。もしかしたら、水面下ですでに不正が行われているかもしれません。
そこでおすすめしたいのが、経理をアウトソーシングする方法です。第三者が介入することで、社内の不正は防げます。大切な社員を疑う必要もなくなります。
当社「Bricks&UKアウトソーシング」では、経理業務の一部代行にも丸投げにも対応します。外部委託に不安がある場合には、1カ月のお試しも可能です。ぜひ一度ご相談ください。