経理代行は税理士法違反になる?違法となるケースを法に基づいて解説2025.01.22
近年、低コストで業務を効率化できる経理のアウトソーシングを利用する中小企業も増えています。
ただ、もともと記帳など経理業務を依頼できる専門家には、税理士がいます。税理士は国家資格を持つ専門家であり、税理士資格を持たない業者が経理代行を請け負うのは税理士法違反では?と疑問に思う人もいるようです。
しかし経理代行サービスは、基本的には税理士法違反でなく、他の法律にも抵触しません。とはいえ、場合によっては法令違反となるケースもあり得るので注意が必要です。
この記事では、経理代行サービスについて、税理士法と照らして解説します。
目次
経理代行サービスに必要な資格はない
まずは、経理代行を行っている業者の種類と、経理代行業に必要な資格を見てみましょう。
経理代行を請け負う業者
経理代行サービスを請け負う業者は、主に次の3種類です。
- 税理士事務所・税理士法人
- 経理代行サービス会社
- 経理フリーランス
税理士事務所と税理士法人の違いは、税理士の人数です。1人の場合は税理士事務所、2人以上から税理士法人を設立できます。名称は「会計事務所」などの場合もあります。
経理代行サービス会社とは、企業などから請け負った経理業務を社員の代わりに行う業者です。企業規模を問わず活用されています。
経理フリーランスとは、企業の経理部門を退職するなどして独立し、個人で仕事を請け負う人や、経理関連の資格を活かして副業で経理代行をする人を指します。
経理代行業に必要な資格
開業するのに資格や免許、登録などが必要な業種はたくさんありますが、経理代行業には資格も免許も登録も必要ありません。
そのため、開業自体は誰にでも可能です。税理士法で禁じられているわけでもありません。
税理士の独占業務と経理代行の業務範囲
次に、税理士には、税理士資格を持つ人だけが行える「独占業務」があります。その独占業務と、経理代行で請け負う業務は、基本的には一致しません。
税理士のみ代行できる「独占業務」
税理士法で規定されているのは、次の3つの業務です(税理士法第52条)。法では3つを「税理士業務」とし、一般に独占業務と呼ばれています。
次のいずれかの業務を無資格の経理代行業者が行えば、税理士法違反です。
税理士業務 | 概要 |
---|---|
税務代理 | 税務申告の代理、税務調査や処分に対する不服申し立てなどの代理・代行 |
税務書類の作成 | 税務申告にかかる申告書、申請書などの作成 |
税務相談 | 税務申告書類の作成、税務調査への申し立てなどに関し、税額の計算基準や算出方法などについて相談にのること |
「税務書類」とは、税法で作成が義務付けられている書類で、一般的には税務署に提出する書類を言います。
具体的な定義はありませんが、確定申告書など様式のある提出書類のほか、所得税法の施行規則に基づいて青色申告時に必要となる「貸借対照表」や「損益計算書」などが該当します。
ちなみに、違反した場合は「2年以下の懲役または100万円以下の罰金」に処せられる可能性があります(税理士法第59条第1項4号)。
経理代行の基本的な業務
一方、経理代行サービスが請け負うのは、基本的に次のような業務です。ただし、業務内容やサービスの範囲は業者によって異なります。
- 記帳
- 売掛金・買掛金管理
- 請求書の発行
- 振込・支払い
- 経費精算・給与計算
- ファイリング
給与計算は社会保険労務士に依頼するケースも多く、給与計算の代行にも資格は不要です。
この他、経理代行では代行に伴う会計システムの導入支援や、業務改善のためのコンサルティングを行うこともあります。コンサルティングにも資格は必要ありません。
税理士法違反では?と疑われる3つの業務
経理代行が税理士法違反ではないかと疑われる理由は、次のような業務の代行にあると考えられます。
- 記帳代行
- 年末調整業務
- 決算書の作成
年末調整業務や決算書の作成は、基本的には経理代行のサービスに含まれません。しかし、追加料金などを設定して請け負っている業者もいます。
それぞれを税理士法に照らして見ていきましょう。
記帳代行
記帳代行では、会計ソフトへの入力や、出納帳や残高一覧表、試算表や総勘定元帳といった書類の作成を行います。
しかしこれらは税理士の独占業務ではなく、代行業者が無資格で請け負うことも可能です。
根拠となるのは、税理士法の次の規定です。
税理士は、税理士業務のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる(税理士法第2条第2項)。
この条項から、「会計帳簿の記帳の代行」は税理士業務(独占業務)には含まれないものと解釈できます。
年末調整業務
年末調整とは、1年に支払った所得税の過不足を調整する業務です。従業員への申告書の配布・回収や内容のチェック、源泉徴収票の作成などを行います。
書類の配布や回収などは問題ないものの、源泉徴収票など法定調書の作成については、税法の規定にもとづいて行い、税務署への提出を目的とすることから、税理士の独占業務の1つ「税務書類の作成」に該当します。税理士にしか代行できません。
そのため、法定調書の作成を経理代行業者が無資格で行っている場合には法令違反となります。
決算書の作成
決算書とは、年度末に企業が株主などに経営状況を知らせるために作成する書類の総称です。金融商品取引法でいう「財務諸表」、会社法でいう「計算書類」です。
決算書は税法上の規定に基づいて作るものではありません。しかし貸借対照表や損益計算書は主に税額の計算のために作成され、青色申告時に提出する必要もあることから、「税務書類」と見なされます。
前述のとおり、税務書類の作成は税理士にしか代行できません。
判断のポイントは「税理士の提携の有無」
税理士事務所・税理士法人の名称を持たない業者が年末調整や決算書の作成などを請け負っているからといって、必ずしも違法とは限りません。
というのも、経理代行サービスを行っている業者の多くは、税理士法人が母体である、もしくは税理士と提携しているからです。
代行を請け負う業務のうち、税理士資格が必要な業務については税理士に任せているというのであれば、税理士法上の問題はありません。
もちろん、提携する税理士なく請け負っている場合は違法となるため、契約前に確認することが重要です。
もう1つの疑問:税理士が経理代行だけ行うのは違法?
経理代行に関しては、税理士側の業務に対する法的な疑問もあります。
それは、「独占業務に伴わない経理代行は税理士法違反では?」「税務相談や税務申告を行う場合のみ経理代行もできるのではないか?」という疑問です。
この疑問は、税理士法の次の条項にある赤字の表現が発端と考えられます。
税理士は、税理士業務のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる(税理士法第2条第2項)。
しかし、この条項はあくまで「できること」を明確にしたものであり、経理代行だけを行ったとしても税理士法違反にはなりません。
これについては、国税庁の公式サイトにも見解が示されています。
ただし、税理士法人は定款に記載した業務しか行えないため、請け負う業務について定款に記載しておく必要があります。
信頼できる経理代行サービス業者の選び方
経理代行業そのものが税理士法違反とはならないものの、経理代行サービスが無資格で請け負える業務には制限があります。また、サービス内容や請け負う範囲は業者によってさまざまなため、委託先は慎重に選びましょう。
問い合わせ・相談の時点で、次のポイントをしっかりと確認してください。
- 税理士との提携の有無
- スタッフの実務経験や保有資格
- 自社が求めるサービスの委託可否と料金
- これまでの実績・クライアントの業種
- セキュリティ体制
- コミュニケーション・連絡の取りやすさ
それぞれ説明します。
税理士との提携の有無
年末調整業務や決算書の作成など、税理士の独占業務となっている業務を委託する場合は、税理士と提携しているかどうかを必ず確認しましょう。
提携を「している・していない」というだけでなく、税理士の氏名なども聞いておくと安心です。
自社が求めるサービスの委託可否と料金
経理代行は、業務の一部の委託も全部の委託も可能ですが、業者によって請け負う範囲などは異なります。自社がやってもらいたいことが代行業務に含まれているか、実際に委託するといくらになるのかを見積もってもらいましょう。
業界独自の対応や複雑な作業には追加料金が必要なことも多いです。料金表では他社より安そうに見えても、結果的に高くつく恐れがあります。
スタッフの実務経験や保有資格
実務を行うスタッフ、できれば自社の担当をしてくれる人がどんな経験・資格を持っているかを確認しましょう。
持っている資格の難易度よりも、実務経験の長さや業務範囲の広さなどの方が、実務では役立つ可能性が高いです。
これまでの実績・クライアントの業種
代行業者のこれまでのサービス実績や、クライアントの業種も確認しましょう。
実績が浅いと、ノウハウなどが確立されておらず、最適なサービスが受けられない可能性があります。
自社と同じ業種のクライアントがいれば、業界特有の処理なども理解している可能性が高く、委託時の引継ぎもスムーズにできます。
セキュリティ体制
機密データを預けるのですから、セキュリティ対策が万全であることも必須条件です。
あらゆるリスクを考慮し、複数の対策を講じているかどうかが需要です。実際にどんな対策を取っているのかを具体的に確認することをおすすめします。
これまでにセキュリティ関連の事故がないことも確認してください。
コミュニケーション・連絡の取りやすさ
経理代行サービスを有効活用するには、互いの信頼が欠かせません。聞きたいことは遠慮なく聞いて、コミュニケーションや連絡が取りやすい相手かどうかも確認しておきましょう。
相談時の対応はもちろん、質問への回答が的確か、対応スピードが速いか、要望に対する姿勢が前向きかどうかなども見てください。
法令遵守の経理代行で業務効率の改善を
経理代行業の経営や利用は、税理士法違反にはなりません。経理代行サービスが行う業務は、税理士の独占業務ではない部分からです。
ただ、税理士法人が母体となっていたり、税理士と提携したりして、税務に関する業務を請け負う業者もたくさんあります。その場合は、税理士が該当業務を行う仕組みです。
とはいえ、いい加減な業者がいる可能性もあります。「業務範囲に含まれているから問題ないだろう」と安易に信用せず、税理士との連携を確認しておきましょう。
当社「Bricks&UKアウトソーシング」は、中小企業の経営・税務サポートを得意とする「税理士法人Bricks&UK」が母体の経理アウトソーシングサービスです。税理士との連携により、税理士法に関わる業務や専門的な対応が可能です。どんなことでもお気軽にご相談ください。