経理DXはどう進める?導入のメリットや流れ、注意すべき点を解説2025.01.14

デジタル技術やAIなどを取り入れ、ビジネスに革新をもたらすDX(デジタルトランスフォーメーション)。「経理DX」とは、それを経理の分野にも取り入れ、ITシステムやツールで業務改善を図ることを指します。

経理DXは、業務効率を上げるだけでなく、社会の変化に適応しつつ経営を強化して、企業が今後も生き残るための取り組みです。そのため、進めるには準備が必要であり、安易に始めては逆効果ともなるので注意が必要です。

今回は、経理におけるDXの必要性からメリット、DXの進め方と注意点まで、わかりやすく解説します。

経理部門によくある課題

経理部門は、会社の規模や業種にかかわらず、次のような課題を抱えがちです。

  • 紙・ハンコ文化による非効率な作業
  • 人材不足による属人化
  • 資料やデータの分散化

それぞれ説明します。

紙・ハンコ文化による非効率

経理部門の抱える課題

紙での作業には、印刷や保管などの作業も伴うため、数が多いほど時間がかかります。手書きであれば間違えるたびに書き直しなどの手間が生じます。印刷するにも、プリンターの用紙切れや紙詰まりなどのエラー、インク切れなどの際にもいちいち時間を取られます。

すぐに対応したくても外出中の上司の印鑑待ちで作業が進まない、回覧が回ってこず情報が遅い、郵送で日にちがかかる、といった非効率な状態にもなりがちです。

人材不足による属人化

経理部門の抱える課題

経理は最小限の人材配置にされることが多く、分業化できないケースも多いです。そのため、業務が「その人にしかできない」、あるいは1人に殺到するなどの属人化になりがちです。

属人化は、当人の負担となるだけでなく、他の社員が知識の習得や経験をする機会を奪うことに。また、「その人にしかわからない」ブラックボックス化して、不正の温床にもなり得ます。

資料やデータの分散化

経理部門の抱える課題

ファイリングした紙の資料を探すのには、時間がかかります。複数人いればどこに何を保管してあるかもわかりにくくなり、誰かが持ち出していればすぐに見ることもできません。

デジタルデータも、部門ごとに異なる方法で処理するなどしてバラバラになりがち。連携にも時間や手間がかかり、情報を得るにも一苦労です。

経理にDXが必要な理由

経理にDXが必要な理由

前章にあるような経理の課題は、経理のDXですべて解決することができます。また、DX化を進めるべき理由には、次のようなことも挙げられます。

  • 正確・迅速な経営判断をするため
  • 人材不足に対応するため
  • 社会の変化に適応するため

それぞれ見ていきましょう。

正確・迅速な経営判断をするため

経営トップが正確な意思決定をスピーディーに行うには、正確なデータをリアルタイムで把握する必要があります。

しかし経理がDX化されていないと、各データの収集・まとめに時間がかかるほか、手書きや手動ではデータに間違いがある恐れもあります。

昨今の感染症の世界的流行や戦争・紛争に伴う物価の高騰、大幅な円安など、多くは予測不能の事態で突然起こるため、リアルタイムの把握が重要です。
また、データ化によって予測や分析もしやすくなります。

人材不足に対応するため

経理業務のデジタル化は、労働環境をより良くすることでもあります。優秀な人材を確保するにも、今いる人材が辞めないようにするにも、経理のDX化は必須です。

少子化により労働人口は今後減少する一方で、多くの業界が人手不足です。転職市場には経理の求人も常に多く、働く側がより良い環境を選べる状況が続いています。

社会の変化に適応するため

人々の生活様式や社会の変化も、DX化が必要となる理由の1つです。近年では、次のようなことが経理の業務量に影響しています。

  • ワークライフバランスなど働き方改革
  • 2025年の崖」問題
  • 法改正 

それぞれ説明します。

ワークライフバランスなど働き方改革

働き方改革で特に重視される長時間労働の削減や、育児・介護など家庭と仕事の両立にも、経理のDX化は欠かせません。

経理DXによる労働環境の改善や「柔軟な働き方」への対応は、社員のモチベーション維持や、離職防止にもつながります。

2025年10月からは、3歳以上の未就学児を養育する従業員が利用できる、テレワークや短時間勤務などの制度を2つ以上導入することが義務化されます(改正育児・介護休業法「柔軟な働き方を実現するための措置」)。

「2025年の崖」

「2025年の崖」とは、業務効率や競争率の低下により、DX化していない企業が市場から淘汰されることを危惧する言葉です。2018年に経済産業省が発表したDXに関するレポートの中で、初めて用いられました。

経産省は、老朽化した既存の古いシステム(レガシーシステム)を使い続けることにより、2025年以降には現在と比べて年間で最大約3倍、12兆円もの経済損失が出ると見ています。

法改正

最近では、インボイス制度の導入や電子帳簿の保存の完全義務化などがありました。こうした法改正が行われると、そのたびに経理担当者の業務量も増えがちです。

しかし、今後もさまざまな法令に関して繰り返し改正が行われていくでしょう。DX化で正しい情報を早めにキャッチし、システムを活用して効率よく対処する必要があります。

経理DXの進め方

経理DXを進めるには、次のように下準備から始め、最適化することが必要です。

  • 下準備1)経理業務の可視化と整理
  • 下準備2)システム・ツールの理解と選定
  • 1)ペーパーレス化
  • 2)業務の自動化・効率化
  • 3)業務プロセスの最適化
  • 4)運用ルールの策定と周知

順に説明します。

下準備1)経理業務の可視化と整理

経理DXの進め方

まずは自社で行っている経理業務を棚卸しして、業務の流れも確認します。

その中で、デジタル化すべき部分を明確にしましょう。

特にネックとなっている作業や、他部門にも影響する部分(デジタル化でより広い範囲の改善が可能な業務)を確認し、優先順位をつけることをおすすめします。

下準備2)システム・ツールの理解と選定

経理DXの進め方

経理DXに活用できるシステムやツールには、数多くの種類があります。どのようなシステム・ツールがあるのかを知り、自社の課題解決に必要なものを選びましょう。

とはいえ、自社ですべてを判断するのは難しいかもしれません。システム開発業者や税理士などに相談するのもおすすめです。

1)ペーパーレス化

経理DXの進め方

紙での作業を行っている場合には、まず既存書類の電子化が必要です。帳簿や文書などを複合機でスキャンして画像データに変換し、OCRソフトを使ってテキストデータに変換したり、PDFファイルにして保存したりします。

書類が大量の場合は、そのために手間と時間がかかるため、アウトソーシングなどを活用するのも1つの方法です。

2)業務の自動化・効率化

経理DXの進め方

デジタル化すべき業務について、それぞれの業務に合ったシステムやツールなどを導入し、自動化します。

入力や集計などの作業を自動化し、システムの連携によってデータを一元化。効率よく管理・分析できるようにします。

3)業務プロセスの最適化

経理DXの進め方

導入したシステムやツールに照らし、これまでの業務プロセスのムダや非効率な部分を探しましょう。慣例でしかない不要な作業はやめ、二度手間など無駄な流れは修正します。

作業や手順などはマニュアルを作るなどして標準化し、誰もが同じように行えるようにします。

4)運用ルールの策定と周知

経理DXの進め方

導入したシステムや新たな業務フローなどについては、運用のルールを決めて全社員に周知することが必要です。必要な部分については、取引先などへの連絡も必須です。

運用ルールとは、たとえば入力の際のフォーマットや、データ保存の期間・場所、バックアップ頻度などのルールです。アクセス権限や承認のプロセスも決めておきましょう。

社員への周知には、説明会を開いたり、OJTで教えたりするほか、社内イントラネットに常時マニュアルを掲示しておくなどの方法があります。

DX化が可能な経理業務と具体例

DX化が可能な経理業務と具体例

経理業務には、デジタル化向きのルーティン作業や単純作業も多いです。DX化で簡略化できる主な作業と、それぞれがどのように簡略化できるのかを大まかに見ていきましょう。

経費精算

  • 領収書をスキャンし、データ化して入力の手間を削減
  • スマホアプリで経費を記録、リアルタイムですぐに申請・承認
  • 不正検知機能で不正経理を防止

売上の集計

  • 各システムから自動でデータを収集し、集計・分析
  • 情報を集約したダッシュボードで視覚的にデータを把握

請求書の発行・受領

  • スキャンした請求書をデータ化して会計システムに自動入力
  • 承認プロセスをワークフロー化し、処理時間を短縮
  • 電子請求書によるペーパーレス化

振込・入金・仕訳

  • 会計システムと銀行口座を連携、承認済の支払データをもとに自動で振込
  • 口座の入金情報を定期的に取得、会計システムの売掛金データと自動で照合
  • 照合結果に基づき会計システムに入金データを自動登録、自動で消込
  • 仕訳や仕訳伝票の作成、転記も自動化

給与計算

  • 勤怠管理システムから自動でデータ収集、給与計算システムに連携
  • 休日出勤や残業時間などの計算を自動化
  • 勤怠データに基づき、給料や社会保険料などを自動計算
  • 税金控除額なども自動計算し、給与明細を作成

決算業務

  • 定型業務を自動化
  • 仕訳データに基づき、財務諸表を自動で作成
  • AIが財務データを分析、課題の発見や予測を支援

このように、経理業務のあらゆる場面でデータを活用し、作業を自動化することができます。

経理DX化に役立つシステム・ツール

経理のDX化に必要となるシステムやツールには、次のようなものがあります。

システム・ツールの種類できること・商品例
経費精算システムレシートの読み取り自動化、オンラインでの申請・承認、振込や仕訳データの作成など
「マネーフォワード クラウド経費」「freee Expense」など
クラウド型会計システム経費精算システムとの連携により、自動仕訳や決算書の作成、税務申告書の作成サポートなど
クラウド型であれば、外出先からでも確認でき、自動アップデートにより常に最新のシステムが利用可能
「freee」「kintone」「マネーフォワードクラウド会計」など
AI-OCR
(人工知能光学文字認識)
スキャンした紙の請求書や領収書、明細書などから、文字部分を自動抽出し、データに変換するツール。
RPA
(Robotic Process Automation)
請求書などの入力や銀行明細の照合など、定型的な作業をロボットが代行
「UiPath」「AAEON GeneSys」など
電子帳票システム請求書や見積書など、さまざまな帳簿を電子化して作成・送付・保管
「弥生会計」「ABBYY FineReader」「freee」など
BI(Business Intelligence)ツール膨大なデータの収集・分析、傾向やパターンの可視化、データの一元化、レポートの作成など
「Power BI」「Tableau」「Google Data Studio」など
クラウドERP
(Enterprise Resource Planning)
会計や生産、販売、人事など、あらゆる部門のデータを一元管理、リアルタイムで共有
「freee」「Microsoft Dynamics 365」「kintone」など
ワークフローシステム申請や承認のプロセスをオンラインで可視化、自動化
「kintone」「ジョブカンワークフロー」「Google Workspace」など

経理のDX化で得られる7つのメリット

経理のDX化で得られる7つのメリット

経理をDX化することで、具体的には次のようなメリットがあります。

  • 業務効率の向上
  • ミスの削減
  • コストの削減
  • 属人化・ブラックボックス化の防止
  • セキュリティの強化
  • 法改正への迅速な対応
  • コア業務への集中

業務効率の向上

紙での手書きや保管、古いシステムによる作業から経理DXを行うことで、手間が減り、作業時間も減らせます。

業務が早く終わればプライベートの時間も増えるので生活にメリハリが生まれ、作業効率の向上も期待できます。

ミスの削減

手作業での転記や入力作業が減れば、もしくはシステムがより使いやすいものになれば、ミスも減らせます。

作業時間が減って時間にも心にも余裕ができれば、ケアレスミスが減るほか、ダブルチェックなどミスを防ぐための体制も整えられるでしょう。

コストの削減

経理業務をペーパーレス化すれば、用紙の購入や複合機のリース、紙の廃棄などにかけていた費用が削減できます。

作業効率が上がり残業時間が減れば、人件費も減らせます。また、紙の保管スペースがなくなれば、オフィスの貸料や貸倉庫のレンタル料は不要になり、光熱費の削減にもつながります。

ペーパーレス化は、コスト削減だけでなくSDGsの一環として、社会貢献や企業のブランディングにもつながります。 DXにもコストは必要ですが、長期的に見ればコスト削減になります。また、「IT導入補助金」や「人材開発支援助成金」など、DX化に活用できる補助金・助成金もあります。

属人化・ブラックボックス化の防止

経理部門にありがちな属人化・ブラックボックス化も、DXによって解消・防止できます。データは共有化されるので1人に依存することなく、必要とする誰もがいつでもアクセスできる状態に。

当人が休んだり不在だったりしても、困ることはなくなります。不正にも気づきやすくなりますし、そもそも不正がしにくくなります。

セキュリティの強化

経理のDXで、データの保存、管理も徹底しやすくなります。

前述のとおり、デジタル化すればデータを共有化して複数の人が見られる、いわば衆人環視的な状態になります。そのため、普段から特定の人物による不正が起きにくい状態に。

さらに、暗号化などによってデータにアクセスできる人間を限定すること、アクセスした人間を把握することも可能になります。

法改正への迅速な対応

DX化していれば、法改正が決まった際も会計システムの開発会社などが情報をいち早く入手し、知らせてくれます。また、クラウド型のシステムは、法改正に対応できるように自動でアップデートされます。

システム開発会社は、セミナーを開催して法改正の詳しい内容や対応策を教えてしてくれたりもします。

コア業務への集中

DXで時間に余裕ができれば、より高度な業務、たとえば資金繰りや将来を見据えた改善案、新K事業の提案など、AIには任せられないコア業務に時間をかけることができます。本来の経理は「経営管理」であり、単なる事務作業にとどまりません

少人数の会社で営業などと兼務している場合には、本来の業務に集中できるようになります。

経理DX化を進めるときに注意すべきこと

経理DX化を進めるときに注意すべきこと

経理のDX化は会社に大きなメリットをもたらすものですが、次のような注意点もあります。

  • 単なる機械化で終わらせない
  • 全体像を意識したシステム構築をする
  • 下準備や根回しをしてから始める
  • 自社に合ったツールを選ぶ
  • 例外的な作業や対応を減らす
  • 専門家のサポートを受ける

それぞれ説明します。

単なる機械化で終わらせない

冒頭でも述べた通り、DXの本来の目的は「デジタル化によるビジネスの変革」です。手作業を機械化して楽になった、というだけで終わりではありません。

DX化を進めれば、便利なシステムやITツールと、時間や精神的な余裕が手に入ります。すると、視野が広がり新たな発見ができる、見方が変わるなどの意識変化も生まれやすい状態に。

それを、さらなる経理業務の改善や、関連部門の課題解決、経営の改善・改革といったコア業務に生かすことが重要です。

全体像を意識したシステム構築をする

システムの構築は、経理部門内のみならず、他部門や取引先なども含めた全体像を意識して行う必要があります。また、中長期的な戦略を見据えて計画的に進めなくてはなりません。

そうでないと、別々に導入したシステムの連携がうまくいかない、役目が同じツールを重複して導入してしまったなどのムダが出る可能性があります。

下準備や根回しをしてから始める

経理DXで最大限の効果を得るには、自社の状況を具体的に把握し、どこにどんなツール・システムが必要かを確認した上で進めなくてはなりません。

関係する社員にはあらかじめ説明し、理解を得ておくことも必要です。経理部門だけで決めて進めてしまうと、営業など他部門からの抵抗も大きくなります。

営業社員には影響するクライアントの理解を得る役割もあり、全員の協力なしではうまくいきません。

自社に合ったツールを選ぶ

自社の課題を解決してくれるシステム・ツールを導入するのはもちろんですが、社員のIT知識やITスキルに合ったツールを選ぶことも大切です。

たとえばITに詳しい社員がいないのに、高度なシステムを導入するのは避けた方がよいでしょう。習得に時間がかかる、ミスが増えるなどすれば、かえって非効率となってしまいます。

例外的な作業や対応を減らす

経理部門では、営業からの依頼で個別にイレギュラー対応をしているケースも少なくありません。しかし、経理のDX化を契機に、例外的な作業は徐々にでもなくす、もしくは減らす必要があります。

せっかくシステム化しても、例外的な対応をしているとスムーズにDX化できません。誰もが同じことを同じようにできるよう、業務を標準化することも重要です。

専門家のサポートを受ける

経理のDX化には、専門的な知識も必要となります。日常の業務もある中、自社の課題解決にぴったりなシステムやツールを選ぶのは簡単ではありません。

そこで活用したいのが専門家です。経理DXについて相談できる業者には、システム開発や販売を行う「ITベンダー」や税理士・会計事務所経理のアウトソーシング業者などがあります。

「IT導入補助金」を活用する場合には、補助金事務局に登録済の「IT導入支援者」と連携してシステムやツールを導入する必要があるので注意が必要です。

DX化とともに、経理業務の一部や全部を外部委託するのも1つの選択肢です。
経理アウトソーシング業者でもシステム導入のサポートをしているので、相談してみるのがおすすめです。

経理DXは会社の成長につながる重要な鍵

経理部門のDX化は、経理部門の業務効率化にとどまらず、他部門の業務、ひいては経営判断や事業の存続にまで影響し得る重要な取り組みです。

DX化を進めるには、まず自社の経理業務の現状把握から始め、どの部分をデジタル化すべきか見極める必要があります。

ただ、自社だけで最適なシステム・ツールを選ぶのはなかなか難しいものです。ITベンターや会計事務所、経理アウトソーシング会社などにも相談し、失敗のないよう進めていきましょう。

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