経理でもリモートワークや在宅勤務は可能?必要な準備と注意点2024.10.22
コロナ禍の緊急事態宣言で、多くの企業がリモートワークを取り入れました。しかし、経理担当だけは感染リスクに怯えながらも通勤せざるを得なかった、という企業も多かったのではないでしょうか。
それには経理特有の事情もあるものの、起こり得るリスクや時代の流れを考えると、これからは経理業務もリモートワークや在宅勤務を可能にすべきと言えます。
この記事では、経理担当がリモートワーク・在宅勤務の対象外となる例や理由、経理担当をリモートワーク可能にすることのメリット・デメリットを紹介、最後にそれを可能にする方法と注意点について解説します。
目次
リモートワーク・テレワーク・在宅勤務の違い
まずは、用語を確認しておきましょう。
リモートワークとは
「リモートワーク」とは、オフィスとは離れた場所で業務を行うことです。
会社が用意したサテライトオフィス(社外の拠点)での勤務や在宅勤務、不特定多数の企業や個人が利用するシェアオフィスでの業務などが当てはまります。
在宅勤務=自宅でのリモートワーク
「在宅勤務」は、リモートワーク(テレワーク)の形態の1つで、自宅で業務を行うことを指します。
テレワーク=リモートワーク
政府が普及を推進する「テレワーク」も、リモートワークと意味は同じです。
「リモート」にも「テレ」にも、「遠隔」という意味があり、形容詞か接頭語かの違いがあるだけです。
ただ、完全に在宅での業務を「フルリモート」と呼ぶのに対し、テレワークにそのような別の用法はありません。
経理のリモート・在宅勤務が難しい例とその理由
経理担当者がリモートワークできない企業では、「環境が整っていない」というのが大きなネックとなっています。
次のような場合、リモートワークでは業務ができません。
- 手作業で行う業務が多い
- 特定のパソコンでないとできない業務がある
- 処理に紙や現金、押印が必要である
- 社員のリテラシーが不足している
それぞれ簡単に説明します。
手作業で行っている業務が多い
各種の伝票の受け渡しや出納帳への記入など、手作業で行っている業務が多いほど、担当者がオフィスに常駐していなければ処理ができません。
また、たとえば会計ソフトを使っていても、システム化されていなければ、取引内容を紙から転記する作業が必要です。
特定のパソコンでないとできない業務がある
会計ソフトを使っている場合、ソフトには従来からあるインストール型と、近年増えてきたクラウド型があります。インストール型ソフトの場合、ソフトをインストールしたパソコンでのみ処理が可能です。
また、電子証明書をインストールしたパソコンからしかログインができないサイトもあります。
さらに、業務が完全に分業されているなどして、データが特定の人のパソコンにローカル保存されているような場合も、リモートワークでは共有できません。
処理に紙や現金、押印などが必要である
紙で書類をやり取りしている場合、それらは棚など1カ所にまとめてファイリングや保存をします。
印鑑が必要な書類には押印も手作業ですし、現金を取り扱っていれば、経費の建て替え精算時などの手渡しも必要です。
そのため、紙や押印した書類の手渡しができる場所、ファイリングや保存が可能な場所、つまりオフィスに、経理担当者がいなくてはなりません。
従業員のリテラシーが不足している
従業員一人ひとりにパソコンやソフトウェアなどを活用する知識や能力がないと、リモートワークは難しくなります。
自宅では自分でパソコン設定やネット接続をする必要があります。パソコンがフリーズした場合などの対処もある程度できなくては、作業が進みません。
また、セキュリティへの高い意識もなければ、マルウェアへの感染や重要データの破損、メールの誤送信といったリスクが生じます。
経理をリモート・在宅可能にするメリット・デメリット
上記のようなケースではリモートワークが難しいものの、環境さえ整備すれば経理業務でもリモート・在宅勤務は可能です。
経理業務をリモート可能にすることには、次のようなメリット・デメリットがあります。
リモート・在宅可能にするメリット
主なメリットは次の4つです。
- 災害時などのリスク対策になる
- 多様な働き方に適応できる
- コストカットにつながる
- 人材確保の可能性が広がる
災害時などのリスク対策になる
新型コロナウイルスによる感染症の蔓延は収まったものの、今後もいつどのような感染症、災害などが起きるかわかりません。
経理業務もリモートワーク可能な状態にしておくことで、不慮の事態でもスムーズに業務が進められる可能性が高くなります。
経理担当者を感染や事故などのリスクにさらすこともなくなります。
多様な働き方に適応できる
ワークライフバランスという視点で見ても、リモートワークは時代に合った働き方と言えます。
家族の介護や育児などにより通勤が難しくなった社員も、リモートが可能なら働ける可能性があります。
多様な働き方に柔軟に対応することは、社会がこれからの企業に求める大きな役割の1つです。
コストカットにつながる
経理担当者に出社の必要がなければ、オフィススペースや机、ロッカーなど人数分の設備・備品を会社に常備する必要もありません。また、通勤の必要性がなくなれば、交通費の負担もなくなります。
リモートワークの実施に際してペーパーレス化すれば、用紙代も大幅に削減できます。
人材確保の可能性が広がる
求人募集の際、リモートワークが可能であれば、通勤圏外の人からの応募も見込めます。オフィスが交通に不便な立地でも、採用の可能性が大きく広がります。
募集が多く集まるほど、優秀な人材を採用できる可能性も高まります。
リモート・在宅可能にするデメリット
一方、経理をリモートワーク可能にすることには、次のようなデメリットもあります。
- 導入に手間やコストがかかる
- 管理・コミュニケーションが難しくなる
- セキュリティ面のリスクがある
導入に手間やコストがかかる
リモートワークを始めれば、通勤交通費の削減などのコストカットがメリットになるものの、始める前には準備が必須です。
リモートワークを可能にするには、デジタル化が必須です。ITツールやシステムを導入するために、必要なツールを選んだり、体制を整えたりする必要があります。
ノートパソコンなどの購入費や、在宅勤務手当の支払いなども考えねばなりません。
管理・コミュニケーションが難しくなる
経理に限ったことではありませんが、リモートワークでは社員の労務管理がしにくく、コミュニケーションも取りにくくなります。
管理者としては、出社・退社の時刻や勤務態度、健康状態などの把握も難しい状態に。個人単位でも、オフィスにいれば互いに気軽に声をかけたり、相手の様子を見て手伝ったりといったコミュニケーションも容易ですが、離れていてはそれもできません。
セキュリティ面のリスクがある
リモートワークでも、マルウェア感染や不正アクセスなどのリスクがあるほか、端末やデータの紛失・盗難といったリスクも生じます。お金や重要データのやり取りで従業員が不正をしないとも限りません。
個人のネットリテラシーが低ければ、勤務中に不用意なSNS発信などをしてしまう可能性もあります。
管理・コミュニケーションやセキュリティ面でのデメリットは、事前の準備でカバーすることもできます。次の章から、経理をリモート可能にする準備について見ていきましょう。
経理をリモート・在宅可能にする方法
経理業務をリモートワーク・在宅勤務可能にする環境整備とは、次のようなことです。
整備する環境 | 具体策 |
---|---|
業務の見える化・共有化 | ・棚卸しによる担当業務の把握 ・作業方法・業務フローを共有するマニュアルの作成 |
経理業務のデジタル化 (ペーパーレス化、システム化、キャッシュレス化) | ・クラウドストレージやワークフローシステムの導入 ・経理に関する各種システムの導入 ・セキュリティ対策ツールの導入 ・小口現金の廃止 |
リモートワークに必要な環境の整備 | ・Web会議用ツールやチャットツールなどの導入 ・使用するPCの確保 ・インターネット環境の確保 |
リモートにかかる費用負担のルール決め | ・PC端末やネット接続に関する費用 ・在宅勤務手当などの規定 |
リモートワーク時の業務ルール設定と周知 | ・出退勤や業務報告、情報管理などのルール決め ・セキュリティガイドラインの作成 ・各ルールの周知徹底 |
リモートに必要な知識の習得促進 | ・インターネットや導入するシステムに関する講習の実施 ・セキュリティに関する講習の実施 |
さまざまな準備が必要なため、すぐにでも始めておきたいところです。それぞれ大まかに見ていきましょう。
業務の見える化・共有化
まずは、現状把握のため、経理業務の棚卸しをします。誰が何をどのように行っているかを整理し、全体の流れも把握します。
慣例だけのムダな作業は廃止、流れをスムーズに改善するなどした後、共有のマニュアルを作成します。リモートの要不要にかかわらず、これだけでも業務効率化につながります。
経理業務のデジタル化
リモートワークを可能にするには、紙や現金などによる受け渡し・保管や押印の慣例をなくすデジタル化が必須です。
経理業務には、会計ソフトや経費精算システムなどさまざまなITツールがあります。自社に合ったツールを導入してペーパーレス化と効率化を図りましょう。
データの保管・共有にはクラウド(オンライン)ストレージを、申請書類はワークフローシステムを導入するなどして、どこからでも行えるようにします。
小口現金を扱っている場合は、この機会に廃止し、ネットバンキングなどによるキャッシュレス化も実施します。
経理業務のデジタル化や、次に説明する環境の整備には、インターネットやITシステムに詳しい人が必要です。社内にそういった人材がいなければ、専門家や業者に依頼するのが得策です。
リモートに必要な環境の整備
まずはインターネット回線やパソコンなどの確保が必要です。
特定のパソコンでないとアクセスできないサイトの利用には、VPN接続やリモートアクセスツールを導入します。
また、連絡手段としてチャットツールやWeb会議ツールを導入します。
各人が使用するPCは、会社で使用しているものを持ち帰らせる、個人保有のものを使わせる、費用補助のうえ自費購入させる、といった方法があります。
ウェブカメラやマイクなどが搭載されていないPCであれば、別途購入するなどの用意も必要ですし、セキュリティ対策ツールの導入も必須です。
リモートにかかる費用負担のルール決め
リモートワーク・在宅勤務にあたり、従業員の費用負担はなるべく抑える必要があります。会社が何をどこまで負担するのか、従業員負担とするものは何かをはっきりさせましょう。
業務中の電気代やインターネット利用にかかる料金は、会社負担として在宅勤務手当・リモートワーク手当を支給するのが一般的です。
従業員の自宅環境などにより、個人契約のインターネット回線を使用するのか、Wi-Fiルーターの貸与が必要なのかなども異なります。PC同様、各人の状況を確認しておく必要があるでしょう。
在宅勤務手当の支給は、会社側の義務ではありません。ただし、従業員負担とする場合には、その旨をあらかじめ就業規則に定めてあるかどうかがポイントとなります。
従業員に負担させることを新たに規定する場合、不利益変更となるため、従業員の同意を得なくてはなりません。
リモートワークのルール設定と周知
リモートワークでの出勤時と退勤時にはそれぞれ報告を、さらに退勤時には作業報告を入れるなど、労務・業務管理ができるルールを作ります。また、社外からの受信メールなどについての連絡・処理方法なども決めておきましょう。
また、「セキュリティガイドライン」を作成し、データの紛失やメールの誤送信、ウィルス感染などによる情報漏洩を防ぐためのルール、万一の場合の対処法なども決めておきます。
決めたルールやガイドラインは、就業規則などに明文化して従業員全員に周知徹底しておくことも必須です。
リモートに必要な知識の習得促進
PCやインターネットの接続・設定に不慣れな従業員には、自分で行えるよう指導しておかねばなりません。接続不能や故障なども想定して対処しておきます。
新たなシステムを導入した場合には、使用方法について講習を行い、あらかじめ使用に慣れさせておく必要があります。セキュリティに関する教育も行い、各人の危機管理意識を高めておくことも重要です。
経理をリモート・在宅可能にする際の注意点
経理業務をリモートワーク可能にする場合に気を付けたいのは、次の2点です。
- セキュリティ対策を万全にする
- コミュニケーション不足を防ぐ
それぞれ説明します。
セキュリティ対策を万全にする
経理という重要な業務を社外で行わせるのですから、やはりセキュリティ対策は万全にしておかねばなりません。
前述のように、セキュリティ対策ツールを導入すること、ガイドラインを作って講習を行い、従業員の意識向上を図ることは必須です。
パソコンやウィルス対策ソフトのアップデートも定期的に行い、常に最新の状態にしておきましょう。
コミュニケーション不足を防ぐ
チャットツールを導入しただけでは、出退勤や必要事項の伝達のみで1日が終わってしまいます。
表情や態度で体調などを推しはかることもできず、ちょっとした質問や相談、雑談もしづらいため、知らないところで業務が滞ったり、孤独を感じたりしがちです。
たまにはカメラまたは音声で様子をうかがう、定期的にミーティングの時間を設けるなどしてコミュニケーション不足にならないようにしましょう。
「経理をアウトソーシングする」という選択肢もある
経理業務をリモートワークにすることに問題や不安がある場合、いっそのこと社外の専門業者に委託するという方法もあります。
業者であれば業務の環境は整っているため、パソコンやネット環境の整備といったコストはかかりません。従業員に給与と在宅手当を払うより、コスト削減になる可能性が高いです。
セキュリティ対策をしっかり行っている業者を選べば、個人宅でデータの閲覧・処理をさせるよりリスクも抑えられます。
業務の洗い出しやマニュアル作成などをしておけば、アウトソーシングへの依頼もスムーズです。
経理のリモートワーク成功の鍵は十分な準備
経理業務は会社の重要事項を扱う部署であり、紙や現金、印鑑などのやり取りがあるため、リモートワークや在宅勤務は無理だと考えられがちです。
しかし、簡単ではなくとも環境さえ整えれば可能です。リモートワークや在宅勤務が可能になれば、災害や感染症リスクへの対策になるほか、従業員がより柔軟な働き方を選択できるようにもなります。
リモートへの準備段階で業務の棚卸しをすることにより、業務の効率化も図れます。
メリットとデメリットを比較し、取引先やクライアントの状況なども鑑みて、どうするかを決めましょう。
社内での対応が難しい場合は、経理部門を社外のアウトソーシング業者に委託するという方法もあります。自社に合う最善の方法を検討してください。